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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

しかし待てよ、駒形高麗屋敷と、吾妻橋と、つい眼と鼻のあいだにいながら、櫛巻きの姐御は、丹下様が生きてることを知らねえのだ。あの左膳の居どころを、お藤姐御にそっと知らせたら、またおもしろい芝居が見られないとも限らない……。

そんなことを思って、ひとり含み笑いを洩らしながら、与吉がしょんぼりやってきたのは、考えごとをして歩く道は早い、もう本郷妻恋坂、司馬道場の裏口だ。

お待ち兼ねの柳生の婿どのに会わぬうちは、死ぬにも死にきれぬとみえて、司馬老先生は、まだ虫の息がかよっているのだろう。広いやしきがシインと静まりかえっている。この道場によって食べている付近の町家一帯も、黒い死の影におびえて、鳴り物いっさいを遠慮し、大きな声ひとつ出すものもない。

なんといって峰の殿様にきりだしたら……と与吉が、とつおいつ思案して、軽い裏木戸も鉄の扉の心地、とみにははいりかねているところへ、その木戸を内からあけて、夕やみの中へぽっかり出てきた若い植木屋――。

一眼見るより、与吉、悲鳴に似た声をあげた。

「うわあッ! あなた様は、や、柳生源……!」

二

「シッ! キ、貴様は、つ、つづみの与吉だな」