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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
冬の蝶
一
「もう泊るの?」
「いえ、まだ」
「こんなに明るいうちから旅宿屋へついてもつまらないから、もっと歩こうよ。あっちへ行くと、市が立っているらしいよ」
「市よりも、大事な御用が先じゃありませんか」
「御用って、何の御用」
「城太さんは、伊勢から自分の背中につけて来たものを忘れたんですか」
「あ、これか」
「とにかく、烏丸光広様のお館へうかがって荒木田様からおあずかりの品をお届けしてしまわないうちは、身軽にはなれません」
「じゃあ今夜は、そこの家で泊ってもいいね」
「とんでもない――」
お通は、加茂川を見やりながら、笑った。
「やんごとない大納言様のお館、どうして虱たかりの城太さんなんど、泊めてくれるもんですか」
冬の蝶
一
預かり中の病人が、寝床を藻抜けの空にして、紛失したとあっては、これは責任上、かなり驚いていい事件である。
けれど、住吉の浜の旅籠では、病人が病気を作った原因をうすうす知っていたし、無断で出て行った病人も二度と、海へ駈け込む惧れはないものとして、ただ一片の知らせを、京都の吉岡清十郎へ飛脚で出しておいたまま、追手のなんのと、いらざる苦労はしなかった。
――さて、そこで。