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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

四

「こいつめ!」

と、拳を振りあげた。

丹左にはやはり、食べ物の方が、女の涙よりは、重大に心を打つらしい。

四

夜が明けた。

朝になると、丹左は、

「町へ托鉢に行って来るでの、留守をたのむぞよ。――帰りには、そちの薬、暖かい食べもの、それから、油や米なども求めて来ねばならぬでな」

雑巾のような袈裟をかけ、尺八と笠をかかえて、阿弥陀堂から出て行った。

笠は、天蓋ではない、当りまえの竹の子笠である、尻切れ草履をびたびた摺って、雨さえ降らなければ、町へ行乞に出かけるのだった。案山子が歩いているように、鼻下の髭までがみすぼらしい。

殊に、今朝の丹左は、しょぼしょぼしていた。ゆうべは一晩じゅう、よく眠れなかったのである、あんなに悶えたり泣き悲しんでいた朱実のほうは、暖かい蕎麦湯をすすると、一汗かいて、深々と眠りに落ちてしまったが、丹左のほうは、明け方まで、まんじりともしなかった。

その眠れない原因が、今朝もまだ――うらうらと澄んでいる陽の下へ出て来ても――まだ頭のしんに残っていて、とつこうつ、それが心にこだわって離れない。

(ちょうど、お通ぐらいな年ごろだ……)

と、思う。