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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
それで馬鹿騒ぎをするでもない。
「これというのもあの鳰鳥が、あのように上品で美しいからじゃ、鳰鳥に焦がれて来られるのじゃ」長者はいつもそう思って、壊れものでも扱うように鳰鳥を一層大事にした。
「それにしてもどうして鳰鳥は、あれほど立派な白髯の殿を、嫌うような素振りをするのであろう……噂によればこの夜頃、鳰鳥のもとへは縹緻のよい『紫の君』などと綽名を呼ぶ、若衆が通って来るそうだが、それに現を抜かしていて、白髯の殿をいつもになく粗末にするのではあるまいか」
長者にはこれが心配であった。
長者の心配はもっともであった。鳰鳥の心はその若衆に、この日頃とらわれているのであった。
白髯の殿の一行が、二度目に館へ来た時にその一行と前後して、紫匂う大振り袖、したたるような若衆が、彼女のもとへ通ってきた。この夜が二人の初対面であった。
そして翌る日、その若衆は、白髯の殿の一行と前後して館を出て行った。
そうやって出て行くその若衆の、うしろ姿を見送った時、鳰鳥の胸にはこれまでになかった、恋心がほのかに萌えたのであった。
その夜を初めに若衆は、白髯の殿の一行が、館に鳰鳥を訪うごとに、やはり鳰鳥を訪うて来た。