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つたかずらきそのかけはし

蔦葛木曽棧

国枝 史郎

「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页

青空文庫

巴ヶ淵の不思議

国中の者からは敬われ、基督様からは護られて、何不足なく暮らしていた」

「それだのにどうしてお父様は日本へ渡られたのでございます?」

「基督様の御教えを日本へ拡めるそのためにな」

「日本へお渡りになったばかりに、お殺されなされたのでございますね」

「そうじゃ、私は殺された。巴ヶ淵の岩の上で」

「巴ヶ淵の岩の上で?」

「首を刎ねた後の屍骸を、無慙な木曽家の奴ばらは巴ヶ淵へ蹴込んだのだ。いまだに私の屍骸は、巴ヶ淵の底にある。そればかりではない。わしの首は、皮を剥ぎ肉を削いで髑髏とし、漆を塗って盃とし、宝蔵の奥に隠してある。木曽家の奥の宝蔵にな。そして珍らしい客でも来ると、南蛮渡来の髑髏盃じゃと、このように云うてあの義明は、その盃に酒を注ぎ、さも心地よげに飲み干すのじゃ……」

巴ヶ淵の不思議

「さぞご無念でございましょうね」鳰鳥は父の無念を察し、思わずこのように云ったのである。

「無念は言葉にも尽せぬが、それより一層恐ろしいのは、この西班牙の風習として屍骸に首のない時は、天界に産れ変わることが出来ないのじゃ。それ故淵に沈んでいる父の白骨の胴体は、木曽家の宝蔵の中にある、髑髏の盃を恋い慕い、またその髑髏の盃は淵の底の白骨を慕うている。