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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

十七

他所へ行くにしても一揆の衆が、到る所に充ちているらしい。現に盆地を巡っている丘の、すぐの向こう側にもその衆徒が、雲霞のようにいるはずである。

(どうしたらよかろう? どうしたらよかろう?)

二人をこれまで苦しめた手合は、真の一揆の衆ではなく、贋一揆の衆なのであったが、再々苦しめられた二人のものには、その真贋が差別つかず、総括的に一揆衆とあれば、恐ろしく思われてならないのであった。

(それにしても何んとこの俺は、腑甲斐ない人間になったことか!)

範之丞には苦痛であり悲哀であった。

(かりにも親の敵を討とうと、旅へ出て来た俺だのに、人の声に驚いたり、物の音に怯えたりする。この臆病にはどうしてなったか?)

一つには屡苦しめられたことが、その原因にはなっていたが、さらに重大な原因といえば、親の敵を討たねばならず、それまでは迂濶には死なれぬ体と、あまりに自分を労わって、命を惜しみ危険をさけたこと――このことのように思われた。

(進んで危険に曝らされよう! 生死の巷へ出て行こう!)

範之丞へ勇気が湧いて来た。

「お玉殿」と範之丞はいい、側に坐っているお吉の手を、情熱をもって握りしめた。