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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

四

顔蒼褪め眼落ち窪み、髪はほぐされて束ねられている。

あの夜この家のお吉のために、首を締められて気絶をし、蘇生した時には手足を縛られ、この部屋へ抛り込まれていた。

その上その時には九十郎がもうこの家へ帰って来ていた。

縄は解かれたが窓には格子、階下へ行っても九十郎がいる、逃げることは出来なかった。

「声をあげれば用捨なく切るぞ!」

九十郎によって嚇されてもいた。

親の敵の九十郎! 討たねばならぬ九十郎! 其奴のために捕えられ、この恥辱を受けているのであった。

四

「織江殿」

といいながら、九十郎がはいって来た。

「…………」

無言で織江は睨みつけた。

「睨んだ顔も美しゅうござる」

いいいい九十郎は少し間を置き、織江の前へ図々しそうに坐った。

「今度の災難もことごとく、そなたの美貌から起こったことでござるよ」

事実相違でもないのであった。

服部家へ寄食した。と娘の織江の美貌が、彼の好色心をそそのかした。そこで彼はあたって見たところ、烈婦の気性ある織江であった。「食客の身分で無礼千万」と、剣もホロロにたしなめた。

彼女の父石見からは、足を薙ぐは邪道の剣と、こういわれてたしなめられ、娘には恋を拒絶された。