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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
六
上がり框から板張りで、巨大な炉が一つ切ってあり、釣るされてある薬罐の下では、薪が焔をあげていた。
「白須氏、貴殿は奥へ」
「は」
というと百姓爺――まことは貝十郎の腹心の同心、白須源吾は窓から離れた。
「十二神様、大丈夫で?」
「うん」といって頷いた。
間。源吾が立ち去って間。
と、入口から冬次郎が、ツカツカと土間へはいって来た。
六
「貝十郎、汝であったか! ふうむ、やっぱり汝であったか!」
何んとなく殺気立った気勢に驚き、啼き立つ家鶏の籠脇に立ち、冬次郎は烈しい叱咤の声で、
「本年一月十五日の夜、田沼屋敷をなつかしがり、立ち廻ったお浦ままごと狂女を、稲荷堀附近にて発見し、捕えんとせし時汝出でて、邪魔して逃がせしを手はじめに、先夜は先夜で再び邪魔をし、無礼! 余が手を十手にて挫き、捕えしお浦をまたも逃がしたな。それさえあるに今日は卑怯、我らが後を忍びやかに、尾行けさせ立ち聞きさせおったな! ……あらば申せ、いい訳あらば申せ!」
「何んのいい訳などありましょうや」
腰かけていた上がり框、そこから立った貝十郎は、貴人に対する礼は崩さず、慇懃に両手を膝に垂れながらも、儼として冒されぬ役人の態度、声も冷徹森厳にいった。