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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

二

不知火銭……おおぜいへ撒くんだから、もとより一包みの銭の額は知れたものだが、これを手に入れれば、何よりもひとつの記念品で、そのうえ、禍を払い、福を招くと言われた。マスコットとかなんとか言いますな、つまりあれにしようというんで、この司馬道場の不知火銭というと、江戸中がわあっと沸いたもんです。

慶事には……そのよろこびを諸人に分かつ意味で。

こんどのような悲しみには――死者の冥福を人々に祈ってもらうため、また、生前の罪ほろぼしのこころで。

銭を撒く――通りを埋める群衆の頭上へ。

吉と呼ばれた男を取りまいて、さっきの職人らしい一団が、しきりにしゃべるのを聞けば、

「それに、まだ一ついいことがあるんだぜ」

「銭をくれたうえにか」

「おう。その銭の包みにヨ。たった一つ、御当家のお嬢さんが御自身で筆を取って、お捻りのうえに『御礼』と書いたやつがあるんだ。よろこびごとなら朱の紅筆で、きょうみてえな凶事にゃあ墨でナ――その包みを拾った者はお前……」

二

その、幾つとなく撒く中に、ただ一つ、御礼とお嬢さんの筆あとのあるお捻り……お墨つきの不知火銭を拾ったものは。

ただひとり、邸内へ許されるという――門外にむらがる群衆の代表格として。