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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

二

貧民に施しをするなら、このおれの手でしてえものだ。こりゃアあの壺は、めったに人手にゃア渡されねえぞ」

そう左膳が、キッと自分に言い聞かせた瞬間、あたまの上の橋の袂から、

「わっはっはっは、矢を放ちてまず遠近を定む、これすなわち事の初めなり、どうだ、驚いたか」

という、とほうもない胴間声が……。

二

まず矢を放って、遠近を定む。すなわち事のはじめなり……あっけにとられた左膳、片手に矢を握って立ったまま、声のするほうを振りかえりました。

橋の上に、人が立っている――のだが、その人たるや、ただの人間ではない。じつに異様な人物なので。

ぼうぼうの髪を肩までたらし、ボロボロの着物は、わかめのように垂れさがって、やっと土踏まずをおおうに足る尻切れ草履をはいているのだが、丈高く、肩幅広く、腕など、隆々たる筋肉の盛りあがっているのが、その縦縞の破れ単衣をとおして、眼に見えるようである。熊笹のような胸毛を、河風にそよがせて、松の大木のごとく、ガッシと橋上に立った姿……思いきや、街の豪傑、蒲生泰軒ではないか!

「オウ! 貴様は、いつぞやの乞食先生――!」

と、思わず左膳は、一眼をきらめかして、驚異七分に懐しさ三分の叫びをあげたが、橋の上の泰軒居士は、悠々閑々たるもので、