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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

二

逆目を避けた檜の一まい板に、筆ぶとの一行――「柳生源三郎様御宿」とある。

江戸から百十三里、伊賀国柳生の里の城主、柳生対馬守の弟で同姓源三郎。「伊賀の暴れン坊」で日本中にひびきわたった青年剣客が、供揃いいかめしく東海道を押してきて、あした江戸入りしようと、今夜この品川に泊まっているのだから、警戒の宿場役人ども、事なかれ主義でびくびくしているのも、むりはない。

「さわるまいぞえ手をだしゃ痛い、伊賀の暴れン坊と栗のいが」

唄にもきこえた柳生の御次男だ。さてこそ、何ごともなく夜が明けますようにと、品川ぜんたいがヒッソリしているわけ。たいへんなお客さまをおあずかりしたものだ。

その本陣の奥、燭台のひかりまばゆい一間の敷居に、いま、ぴたり手をついているのは、道中宰領の柳生流師範代、安積玄心斎、

「若! 若! 一大事出来――」

と、白髪あたまを振って、しきりに室内へ言っている。

二

だが、なかなか声がとどかない。

宿は、このこわいお客さまにおそれをなして、息をころしているが、本陣の鶴岡、ことに、この奥の部屋部屋は、いやもう、割れっかえるような乱痴気さわぎなので。