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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
02 こけ猿の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页
問われたときに、作阿弥は暗然と腕をこまぬき、
「高潔の士とお見受け申した。お話し申そう」
語り出したところでは……。
かれには、たった一人の娘があったが、作阿弥の弟子の、将来ある工人を婿にえらび、一、二年ほど夫婦となって、このお美夜ちゃんを産んだのち、その良人が惜しまれる腕を残して早世するとともに、子供だいじに後家をたてとおすべきだと、涙とともに一心に説いた父、作阿弥の言をしりぞけて、自らすすんで某屋敷へ腰元にあがり、色仕掛で主人に取り入り、後には、そこの後添えとまでなおったが、近ごろ噂にきけば、その老夫もまた世を去って、ふたたび未亡人の身の上だというが……それやこれやで、おもしろからぬ世を捨てた父作阿弥と、ひとり娘のお美夜ちゃんとの隠れすむこのとんがり長屋へは、もう何年にも、足一つ向けたことのない気の強さ――。
作阿弥と、蒲生泰軒とは、初対面から二人の間に強くひき合い、結びつける、眼に見えない糸があるかのよう……まもなく二人は、十年の知己のごとく、肝胆相照らし、この、疑問のこけ猿の茶壺を中心に、いま、江戸の奥底に大いなる渦を捲き起こそうとしている事件について、夜のふけるまで語りあったが――