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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

闇黒に、何やらシットリとしめった空気が流れている。鎬から棟、目釘へかけて、生温かい血でぬらぬらする大刀濡れ燕を、枯れ細った左手に構えた左膳は、

「くせの悪いこの濡れ燕の斬っ尖どこへとんでいくか知れねえから、てめえらたちっ、そのつもりでこいよっ」

しゃがれた声で、ひくく叫んだ。

髑髏の紋が、夜目にもハッキリ浮かんで、帯のゆるんだ裾前から、女物の派手な下着をだらりと見せた丹下左膳、足を割って、何かを踏まえているのは、これこそは、こけ猿の茶壺に相違ない風呂敷の木箱。

そしてその足もとには、例のチョビ安がうずくまっているので。

したい寄る影は、みな一様に黒の覆面に、黒装束。どこの何者ともわからないが、いっせいに剣輪をちぢめて、ヒタヒタヒタと進んでいく群れのなかに、

「よいかっ。一度にかかれっ! 壺はとにかく、小僧をおさえろ、小僧を!」

との声がするのは、たしかに、この壺捜索のために伊賀から江戸入りしている、柳生の隊長高大之進だ。

一気に壺を奪取しようと、月のない今宵を幸い、橋下の左膳の小屋へ斬り込みをかけたのだが、早くも二、三人にその濡れ燕を走らせた丹下左膳は、チョビ安に箱をだかせて、ともにこの材木町の通りを、いま、ここまで落ちのびて来たのだけれど。