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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

扇子の虫

一

蜂の巣をつついたような騒ぎのなかで、じっと眼をつぶっている丹下左膳は、甘い女の香が鼻をなでて……お藤が、そっと寄り添っていることを知った。

すると、高大之進は、だまって、さっさと土間へおりてしまった。

「この仁の驚きは、われわれ以上だよ。盗まれたことを知らずにいたのだ。責めても、むだだ。さあ、ひきあげよう」

「しかし、謀られたとしたら……」

「いや、そうでない。何者かが壺を盗み出したことは、この仁の顔色を見てわかる。出なおし、出なおし」

そう笑って高大之進は櫛巻きお藤へ、

「いや、騒がせたナ」

ブラリと尺取り横町を出ていった。他の連中も、しかたなしに、左膳とお藤とチョビ安を、かわるがわるにらみつけておいて、ガヤガヤ立ち去って行く。

急に、しんとしたなかに取り残された三人……鍋を前に、深い無言がつづいています。

扇子の虫

一

顔を見合わせて、吐息をつくばかりです。

さア、こうなってみると、こけ猿の茶壺は、いまどこにあるのか、てんで見当もつかない。

茶壺というと……今の人の考えでは、たかが茶を入れておく容器で、道具の一つにすぎませんが、昔は、この茶壺にたいする一般の考えが、非常にちがっていて、まず、諸道具の上席におかれるべきもの、ことに、大名の茶壺や、将軍家の献上茶壺となると、それはそれはたいへんに羽振りをきかせたもの