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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

八

「お、これはようこそ――」

と、待っていたように言いかけたが、すぐ気がつき、

「これはお珍しい! どうしてわたしどもがここにまいっていることを、ごぞんじで?」

急ぎ口を入れたのが、門之丞です。

「ごらんのとおり、遠乗りにまいられたのだが、にわかの吹き降りに当惑いたし、これなる森かげにかけこんでみれば、この一軒家……ホホウ、道場のお歴々が、この寮にまいっておられるのか。それはわたしどもはじめ、殿もごぞんじなかった次第で」

なんとか辻褄をあわせているうちに。

そんなことは意に介しない源三郎。

きょうはいよいよ、邪魔だていたすお蓮様と丹波の上に、柳生一刀流の刃が触れると思うから、単純な伊賀の暴れン坊、自然に上機嫌です。

まるで、いつもの憂鬱な彼とは、別人のよう……。

若さと、華やかな力とを満面に見せて、その剃刀のように蒼白い顔を、得意の笑みにほころばせながら――。

ヒラリ、馬をおりるが早いか、まごつく十内を案内にうながしたてて、そのまま庭の柴垣にそって、雅びた庭門をあけさせ、飛石づたいに庵のほうへと、雨に追われるように駈け込んでいきます。

つづく玄心斎、谷大八も、自分達がついていて、若殿の身に何事かあってはたいへんだから、馬を木蔭へつなぐのも一刻を争い、門之丞の横顔をにらみつつ、小走りに源三郎のあとを追った。