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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

繰り残した雨戸の間から、庭に面した奥座敷に招じあげられた源三郎、見まわすとそこは、落ちついた風流な部屋で、武芸者の寮とは思われない、静かな空気が流れている。

誰もいません。

源三郎は、むんずと床柱を背にすわって、腕組みをしました。顔に見覚えのある、司馬の門弟の少年が一人、褥、天目台にのせた茶などを、順々に運び出てすすめたのち、つつましやかにさがってゆく。

火燈めかした小襖が、音もなくあいた。

さやかな絹ずれの音とともに、あられ小紋の地味な着付けのお蓮様が、しとやかにはいってきた。

二人は、無言のまま、チラと顔を見合った。切り髪のお蓮様は、いたくやつれているように見えるものの、その美しさはいっそうの輝きを添えて、見る人の心に、いい知れぬ憐れみの情を喚び起こさずにはおかないのでした。

横手に並ぶ玄心斎、門之丞、大八の三人には、会釈もくれずに、源三郎と向かいあって座についたお蓮様は、白い、しなやかな指を、神経質らしく、しきりに膝の上で組んだり、ほごしたりしながらも、

「まあ、ひどい雨ですこと」

思いついたように、戸外の庭へ眼をやり、

「この雨で、せっかくわたくしの丹精した芙蓉も、もうおしまいですね」