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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

三

暗い室内から、ぱっとあかるい午後の光線のなかへ出てきたお蓮様のあでやかさに、出あい頭に、まぶしそうに眼をほそめて、そこに立っているのは、代稽古主席、この剣術大名の家老職といわれる峰丹波だった。

「いかがです、まだ――」

六尺近い、大兵の峰丹波である。そう太い声で言って、にっと微笑った。

まだ老先生は息を引きとらぬか――という意味だが、さすがに口に出し兼ねて、語尾を消した。

「早くかたづくといいのにねえ」

とお蓮さまは、うつくしい顔をしかめて、かんざしで髪の根を掻きながら、

「品川から、なんとかいって来た?」

「いや、一行はいまだに本陣に頑張って、威張っておるそうですが――」

「あの、手紙をくわえた首は、だれも見なかったろうね?」

「あれには驚きましたナ。イヤどうも腐りが早いので、首は、甕へ入れて庭へ埋めました。手紙はここに持っておりますが、私の身体まで、死のにおいがするようで――」

三

京ちりめんに、浅黄に白で麻の葉を絞りあわせた振り袖のひとえもの……萩乃は、その肩をおとして、ホッとちいさな溜息を洩らした。

父の病室からすこし離れた、じぶんの居間で、彼女は、ひとりじっともの思いに沈んでいるのだった。