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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

「エエ、お嬢さま。たばこの火を拝借いたしたいもので、へえ」

と、スポンと、煙草入れの筒をぬいた。

水あぶらの撥さきが、ぱらっと散って、蒼味の走った面長な顔、職人にしては険のある、切れ長な眼――人もなげな微笑をふくんだ、美いおとこである。

なんという面憎い……!

萩乃は、品位をととのえて振りむきざま、

「火うちなら、勝手へおまわり」

「イヤ、これはどうも、仰せのとおりで」

と、男は、ニヤリと笑いつつ煙管をおさめて、

「じゃ、たばこはあきらめましょう。だがネ、お嬢さん、どうしてもあきらめられないものがあるとしたら、どうでございますね、かなえてくださいますかね」

と、その鋭い眼じりに、吸いよせるような笑みをふくんで、ジロッと見据えられたときに、萩乃は、われにもなく、ふと胸がどきどきするのを覚えた。

不知火流大御所のお嬢様と、植木屋の下職……としてでなく、ただの、男とおんなとして。

なんてきれいなひとだろう、情の深そうな――源三郎さまも、こんなお方ならいいけれど。

などと、心に思った萩乃、じぶんと自分で、不覚にも、ポッと桜いろに染まった。

でも、源三郎様は、この植木屋とは月とすっぽん、雪と墨、くらべものにならない武骨な方に相違ない……。