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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

三

「司馬十方斎の娘、手は見せませぬぞっ!」

白い脛を乱して、懐剣のしのばせてある手文庫のほうへ、走り寄ったとたん、

「ウハハハハ、おもしろい芝居だが、ここらで面をだしたほうがよかろうテ」

意外、声とともに、部屋の一方の押入れの襖が、内部からサラリとあいて、

「おいっ! この面が看板だ!」

三

いつから、どうしてこの部屋の押入れになぞ、人がひそんでいたのだろう?

「わはは、驚いてやがら」

おもしろそうに笑いながら、あぐらをかいていた押入れの下段から、ノソリと立ち現われた人物を見ると!

門之丞も、萩乃も、一眼でゾッとしてしまった。

家の檐も三寸さがるといって、夜は、魑魅魍魎の世界だという。

その真夜中の鬼気が、ここに凝ったとでもいうのでしょうか。

魔のごとき一個の浪人姿――。

油っ気のない、赤っぽい大たぶさが、死人のような蒼い額部へ、バラリたれさがって、枯れ木のような痩せさらばえた長身だ。

その右眼は、牡蠣のようにおちくぼんでいるのが、たださえ、言いようもなく気味がわるいところへ、眉から右の口尻へかけて、えぐったような一本の刀痕は、しじゅう苦笑いしているような、かと思えば泣いているような、一種異様なすごみを、この浪人の表情に添えている。