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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
三太夫は無言で立ち上がり、廊下に向かった襖をあけると、スルスルと室外へ出て行った。後を若殿も追って行く。
わざと消灯した長廊下は、暗々として静まり返り、針を一本落としても、その物音が聞こえそうである。その物寂しい長廊下にしばらく三太夫は立っていたが、紙に包んだ白粉を二本の指で抹み上げ、廊下の一所へそれを撒いた。
「ご老人、何をなされますな?」
不思議そうに若殿は訊ねた。
「やがてお解りになりましょう」老人は淡々と云うのである。
それから三太夫は手を延ばして、廊下の雨戸に触れて見た。一枚一枚にいちいち触れて、廊下を一順往来した。
「兎の毛で突いたほどの隙もない。いかな術者でも戸の隙からは、容易にはいっては来られまい」
こう三太夫は呟いたが、それでも不安に思うのであろうか、廊下に立ったまま考え込んだ。
「不安の点でもございましょうか?」
心配そうに若殿が訊く。
「さようさ」と三太夫は気がなさそうに、「不安というほどでもござらぬが、雨戸の数が不吉でな」
「雨戸の数が不吉とは?」
「九十九枚ござろうがの」
「ははあさようでございますか」若殿は面目なさそうに、「雨戸の数が幾枚あるか実は存じておりませぬので」