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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
と芳江は訊き返した。
「甲虫の取り合いをしましたわい!」
「おお、おおそんな事もござんした。その時私は六歳か七歳。そうしてお前は十歳か十一……ああ、あの頃は罪がなかった」
「幼馴染みのその俺には優しい言葉の一つもかけず、敵方の身内の若い男と恋語りするとは何事じゃい!」白痴の粂太はこう叫ぶとやにわに市之丞へ飛びかかって行った。
「これ!」と芳江は仰天して素早く粂太を引き退けたが、「家来の伜、殊には白痴、気の毒に思うて幼い頃から目を掛けて使ったこともあったが、命より大事の市之丞様へ無礼の振る舞いするからはもはや捨てては置かれませぬ。粂太、お父上に申し上げてすぐにも山から追い出しますぞ」
「ええ、お前様のお口からそういう言葉が出ると云うのは、この若者がさせるからじゃ! おのれどうするか見ているがよいわ!」
またもや武者振り付こうとするのを芳江はきっと睨み付けた。
白痴を相手に立ち廻わることも大人気ないと思ってか黙然と立っていた市之丞は、おりから手近の人家から一番鶏の啼き立ったのに驚きの耳を澄ましたが、
「お暇申す芳江殿」と名残り惜しそうに声を掛けた。「お聞き遊ばせや、一番鶏が帰らねばならぬいつもの時刻を告げているではござりませぬか」