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つたかずらきそのかけはし

蔦葛木曽棧

国枝 史郎

「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页

青空文庫

「これには何か込み入った事情があるに相違ない――洞院左膳というお方は、噂によると木曽家でも、花村様に負けないほどの権威者であると聞いてはいたが、しかし腹黒い方じゃそうな。その洞院左膳様と、花村様とお二人が、いずれも殿様のおためじゃといって、一人の遊女を争うとは、どうにも可笑しなことではある」

しかし、可笑しな事と云えば、ただそれだけでは止どまらなかった。

左膳が館を駈け出してから、これまた半刻も経った頃、例の美しい「紫の君」が、あわただしそうにはいって来たが、鳰鳥の落籍を聞くや否や、颯と顔色を蒼白くした。

「…………」じっと無言で考えてから、これまた後を追ったのである。

嶮しい山の中腹を縫って、月のない空の下を、鳰鳥の輿は揺れて行く。甚五衛門も輿舁ぎも、寂然として無言である。輿の中なる鳰鳥も死んだかのように無言である。

無言の一行は山の腹、木曽川の岸の岨道を粛々として行くのである。

鳰鳥は輿に揺られながらもじっと考えているのであった。

彼女はさっき、長者から、落籍の話を聞かされた時、一も二もなく断わったがしかし落籍をされる先が、木曽義明だと聞かされると急に心が一変した。