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つたかずらきそのかけはし

蔦葛木曽棧

国枝 史郎

「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页

青空文庫

和佐保町の噂

と、鳳凰の間の板戸が開いて、髪を乱した芳江姫が、ひらりと廊下へ走り出た。

和佐保町の噂

山杜鵑若葉に啼く晴々しい五月の頃となった。葡萄大谷の別天地は生気溌溂たる緑葉に埋もれ、人々は甦生の力に溢れ、あるいは鉱山の発掘に、または武術の鍛練に、勤むべきが普通であったのに、今年はそれが不可能かった。

オースチン師一行の脱出や、謀反人ありとの取り沙汰が、部落民の意気を沮喪させたことももちろん原因ではあったけれど、天蓋山の鉱山から鉱石が出ないという噂がいつとはなしに一般に拡がって、人々の心を驚かせたことと、それを案じてオースチン師が、新らたに作って残して行った精細無比の設計図をいつ何者が盗んだものか、吟味所の中にはないという評判が人々の耳へはいったため、彼らは一度に力を落とし、何をする元気もなくなったのであった。

しかしそういう元気のない、変にだれきった一月間にも、部落の人達の心持ちを、ちょいちょい刺激るような事件はあった。――

「右衛門に棄てられたお吉女郎は、狂人になったというではないか?」

「いかさまそんな噂じゃの。その右衛門を殺すとか云って、鎌を持ち歩いているそうじゃ」