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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

「洒落てるともよ、じゃア捻じ込め」

二人は私娼窟へはいったが、しばらく経つと化かされたような、トボケた顔をして飛び出して来た。

「新助エー、いっぺえ掛かったなア」

「囮があんまりよかったからさ」

「俺の敵娼に出て来た女、ご丁寧な黒あばたさ」

「まだそれなら御の字だ、こっちへ現われた女とくると、眉毛と唇とが欠けてるんだ」

「饑えていたって手は出せねえ」

「別の蜆っ貝めっけようぜ」

露路を通りへ出たとたんに、羊羹色の黒紋附き、袴なしの着流し姿、編笠を深々とかぶっている、尾羽うち枯らした浪人の、典型であるといったような、そういう武士とぶつかった。

やり過ごして二人は振り返ったが、

「見たことのある野郎だなア」

「そうよナー誰だったろう?」

が、しかしもうそういった時には、その浪人は露路へ反れていた。

手荒く私娼窟の格子を開け、

「お吉」

と、声をかけながら、暗いじめじめした部屋へ通った。その浪人は平戸九十郎――本姓臼杵九十郎であった。

「お帰りかえ、いいご機嫌ねえ」

長火鉢ともいえないような長火鉢の前に、茶箪笥ともいえないような茶箪笥を背にし、先刻外伝たちを誘き入れた女――玉菊のお吉がさも伝法に、片膝を立てて坐っていたが、