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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

「俺らア馬ア進めただア」

「するとどうだい何んにも入らねえ、馬も入らねえ、駕籠も入らねえとよ」

「そのあげくに執拗く申せば、……」

「手は見せねえと仰せられる」

「えへ、その手だが細っこくて綺麗で……ナーニ刀ア持つ手じゃアねえ。舞い扇持って舞台へ出る……」

「歌舞伎者の手だア馬鹿にするねえ」

「情婦ア連れてのイカサマ道中、見破れなくて街道筋の、稼ぎが出来ると思っているけエ」

範之丞は美貌で華奢、それでどうやら雲助や馬方、河原者の変装と思ったらしい。

と、それ以前から四十一、二の、赭ら顔の骨太の武士が群集にまじって見ていたが、この時ツカツカと割ってはいった。

「これこれ貴様たち悪い奴だ、道中不慣れのお方と見て、ゆすりかけるとは何事だ、ナニ高島まで難路だと、谷もありゃア坂もあるって、馬鹿申せ途方もねえ、一路平坦安楽の道だ。……拙者が仲裁、立ち去れ立ち去れ。……と申しても仲裁役、金を使わぬと男が上がらぬ、ソレ持ってけ、蒔くぞ蒔くぞ」

バラバラと小銭を地へ蒔いた。

「大変なお方が仲へはいっちゃった」

「あべこべにこちとらがいたぶられらあ」

「うるさい!」

と武士は一睨みした。