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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
十三
ひそかに談合し、田沼めを殿中にて刺さんものと、よりより企ておるとかで、性来臆病の彼意次、病いと称して出仕せぬそうじゃ」
「そればかりでなく噂によりますれば、稲荷堀の屋敷にいることさえ、生命の安危心もとなしと、いわば替え玉を屋敷にとどめ、自身はどこへか姿をくらましたなどと……」
熊太郎はそういった。
「うん、そのような噂も聞いた」
この時襖がしずかに開いて、番頭がつつましく顔を出し、
「ご来客にござります」
といった。
「わしに来客、誰であろう?」
「殿、私にござります」
番頭の背後に立っていたのは、意外にも十二神貝十郎であった。
十三
「貝十郎か、さてもさても」
冬次郎はそういった。
まったくさてもさてもであった。
何かしら事件のあるごとに、必ずあらわれる男ではあったが、このような信州の旅の中に、あらわれて来ようとは冬次郎にしても、夢にも思いはしなかった。
それだのに現われて来たのである。
まったくさてもさてもであった。
貝十郎は例の悠然とした態度で、が、しかし貴人に対する尊敬と慇懃の態度は崩さず、部屋へはいると末座へ坐り、一別以来の挨拶をした。
白け渡ったというほどでもないが、逃げ水屋敷で遺憾ないまでに、こっちの計画の邪魔をされ、せっかくとらえたままごと狂女をさえ、途中でかれの部下白須源吾のために、取り返されてしまっ