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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

二十一

廻廊へ出た。

庭へ飛んだ。

木立の間に人影があった。

足踏みひらき、手は合掌、堤宝山流「十全」の構え! その貝十郎が立っていた。

「織江殿か」

「オ、十二神様アーッ」

「静かに! ……いざ!」

織江の体を、軽々と小脇にひっ抱え、木立をくぐり表門の方へ、貝十郎は矢のように走った。

「出合え! 曲者じゃ!」

と田沼の怒声!

諸方から走り出る家臣の姿。

が、貝十郎と織江との姿は、もう邸内には見えなかった。

「貝十郎だな! 汝が汝が!」

意次は廻廊で切歯した。

二十一

織江を連れて貝十郎は、八丁堀の自分の屋敷へ、その夜すぐに帰って来た。

と、同心の桐島伴作が、お浦を連れて迎えに出た。

「おおやはりな」

と貝十郎はいった。

「道にて新助、外伝と出あい……」

担いで行くお浦を奪い取ったと、伴作は事件の一部始終を話した。

「それはそれはお手柄でござった」

聞いてしまうとそういったが、しかし貝十郎は苦笑いをし、

「実はなお浦はそうでなくとも、今夜中に松平冬次郎様お手より、よこすことになっておったのじゃ……いや今頃冬次郎様、周章狼狽していることであろう。……よいわ、わしから安堵させてあげよう」