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くいどうらく
食道楽
村井 弦斎
冬の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 170,664 字 · 341 页
第二百九十二 世の風波
ちょうど海岸に立って理想的の無風無波な海へ乗出したいというに同じ事で、そんな海は世界にない。ないと忽ち世を罵る。これも不心得の第一だ。何でも娘の時分は我儘な心と生意気な心を慎んで老功者の教えに順うものと心掛けなければならん。老功者の唱える理想を実行するものと覚悟しなければならん。娘時代に我が理想なぞという生意気な心を出すのは他日身を不幸の地に陥れる基だとよく兄が申しますから私は決して未来の事を自分では考えません」とこれがお登和嬢の平生の覚悟。
第二百九十二 世の風波
かかる物語は多少経験のある婦人にこそよく解し得らるるなり。小山の妻君さも我意を得たる如く頷きて「ホントにそうおっしゃれば世中の事は今のお話の通りですよ。私なんぞもやっぱり学校の窓から社会を眺めて自分勝手な理想を立てた方ですが今になって考えてみるとホントにおかしいようでございます。私ばかりでありません、その時分の学校友達は皆んな同じような事を考えたものです。ちょうどお話のように理想の海といったら風もなく波もなく一年中盥の水のように穏でそこへ乗出して幸福の岸へ着いたらさぞ楽しいだろうというように考えたものです。