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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
02 こけ猿の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页
ただいまその壺をとりまいて、渦乱が起こりそうなあんばい……」
吉宗公の眼に、興味の灯が、ぽつりとともりました。
「柳生の金なら、柳生のものじゃのに、何者がそれを横からねらいおるのか。余も、その争奪に加わろうかな、あははははは」
大声に笑った八代様は、半分冗談のような、はんぶん本気のような口調だ。
まじめ顔の愚楽老人は、
「柳生は必死でござります。本郷の司馬道場に、居坐り婿となっております弟源三郎を、江戸まで送ってまいりました連中――これは、安積玄心斎なるものを頭としておりますが、そこへまた、国もとからも、一団の応援隊が入府いたしまして、目下江戸の町々に潜行いたしておる柳生の暴れ者は、おびただしい数でござります。それらがみな力を合わせて、いま申したこけ猿の壺をつけまわしておりますが……かんじんの壺はどこにありますのか、とんと行方が知れませぬ由――」
愚楽の地獄耳といって、巷の出来事は、煙草屋の看板娘の情事から、横町の犬の喧嘩まで、そっくりこの愚楽老人へつつぬけなのだから、この、こけ猿の騒ぎにこんなに通じているのも、なんのふしぎもないけれども、まだ丹下左膳なる怪物のことは、さすがの愚楽老人も知らないようす。