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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
02 こけ猿の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页
二、三間離れて、壺を左の腋の下にかかえこんだ丹下左膳が、その、まだ一人立っている黒い影へ向かって、ひだり手に刀を持ちなおし、
「やいっ、汝アもう死んでるんだぞ。手前の斬られたのを知らなけれア世話アねえや」
さけんだかと思うと、その黒い影が大きく前後にゆらいで、まるで足をすくわれたように、バッタリ地に倒れました。同時に、右から左へかけてはすかいに胴がわれて、一時に土を染めて流れ出す血、臓腑……いつのまにか、ものの見事に斬られていたんです。
もののはずみというものは、おそろしい。死んだまま立っていたまでのこと。剣の妙も、こうなるとものすごいかぎりで、斬られた本人が気がつかないくらいだから、あたりの者は、誰も知らないわけ。
呆然としている柳生の侍達を、しりめにかけ、
「また出なおすとして、今夜はこれで、帰れ、帰れっ」
あざけりを残した左膳、濡れ燕をさげた左の腋の下に、こけ猿をかかえて歩き出したが……。
ハッとわれに返った高大之進をはじめ柳生の面々、こうなるとすきも機会もありはしない。一度に、渦巻きのように斬ってかかった。
一本腕の左膳が、刀と壺を持つのだから、防ぐためには、また壺を地面におろさなければならない。