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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

萩乃様を一眼見て、背骨がゾクッと総毛走った拍子に、スーッと恋風をひきこんじまった。

「アア、世の中には、こんな女もいたのか――」

と、それからというものは門之丞、フワアッとしちまって、はたの者がなにをいっても、てんで用が足りない……夢遊状態。

この門之丞という青年は、源三郎をすこしみっともなく、色を黒くしたようながらで、剣は相当たって、まんざらでもない男なんです。

朝夕道場に起き伏ししているうちに、チラチラと萩乃を遠見する機会もおおい。層一層、想いはつのる一方で、ついには、

「すまぬことながら、わが君源三郎様さえ亡き者にすれば――」

とんでもない野郎で、ひそかに、こんなことまで思うようになった。いわゆる、魔がさしたというんでしょうなア。

で……源三郎を遠乗りにつれだしたのも、この門之丞。あのお蓮様の寮へ案内したのも、門之丞。あのお蓮様の寮へ案内したのも、丹波らとはかって、あの隣室のひそひそ話を玄心斎、大八に聞かせたのもこの門之丞。

いま、その門之丞は――。

帯は空解け

一

「オイッ、駕籠屋ッ!」

すこしおそいが、大引け過ぎのこぼれを拾いに、吉原へでもかせぎに行こうと、今し本所のほうから、吾妻橋の袂へさしかかっていた一梃の辻駕籠。