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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

なので。

「若は御存知あるまいが、この者は、妻恋坂司馬道場の奥方、お蓮さまの侍女でござる。拙者は、先般この御婚儀の件につき、先方へ談合にまいった折り、顔を見知って、おぼえがあるのだ」

お蓮さまというのは、司馬老先生の若い後妻である。玄心斎の声を、聞いているのか、いないのか――黒紋つきの着流しにふところ手をした源三郎、壁によりかかって、その剃刀のように鋭い顔を、ニコニコさせて、黙っている。

「その妻恋坂のお女中が、何しにこうして姿をかえて、君の身辺に入りこんでおるのかっ? それが、解せぬ。解せませぬっ」

怒声をつのらせた玄心斎、

「女ッ! 返事をせぬかっ!」

「うらないをしてもらっておったのだよ」

うるさそうな源三郎の口調、

「なあ女。余は、スス、水難の相があるとか申したな」

おんなは、ウフッ! と笑って、答えない。

「爺の用というのは、なんだ」

と源三郎の眼が、玄心斎へ向いた。

「司馬の道場では、挨拶にやった門之丞を、無礼にも追いかえしましたぞ。先には、あなた様を萩乃さまのお婿に……などという気は、今になって、すこしもないらしい。奇っ怪至極――」

「女ア、き、貴様は、どこの者だ」