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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

もう、暑い寒いの感覚はないらしい。

はっはっと喘ぎながら、

「おう、不知火が見える。筑紫の不知火が――」

と口走った。たましいは、すでに故郷へ帰っているとみえる。

並みいる医師や、二、三の高弟は、じっとあたまをたれたまま、一言も発する者はない。

侍女に導かれて、お蓮様と萩乃が泣きながらはいってきた。

覚悟していたこととはいえ、いよいよこれがお別れかと、萩乃は、まくらべ近くいざりよって、泣き伏し、

「お父さま……」

と、あとは涙。お蓮の眼にも、なみだ――いくらお蓮さまでも、こいつは何も、べつに唾をつけたわけじゃアない。

女性というものは、ふしぎなもので、早く死んでくれればいいと願っていたお爺さんでも、とうとう今あの世へ出発するのかと思うと、不意と心底から、泪の一つぐらいこぼれるようにできているんです。

よろめきながら、峰丹波がはいってきた。

やっと意識をとり戻してまもないので、髪はほつれ、色蒼ざめて、そうろうとしている。

「先生ッ!」

とピタリ手をついて、

「お心おきなく……あとは、拙者が引き受けました」

こんな大鼠に引き受けられては、たまったものじゃない。