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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

「殿! お危のうございます」

お気に入りの近習、高大之進があとから声をかけるのも、対馬守は耳にはいらないようす。庭下駄で岩角を踏み試みては、上へ上へと登って行く。

いま言った高大之進をはじめ、駒井甚三郎、喜田川頼母、寺門一馬、大垣七郎右衛門など、側近の面々、おくれじとつづきながら、これはえらいことになった、この小藩に日光お出費とは、いったいどう切り抜けるつもりだろう……ことによると、お受けできぬ申し訳に殿は御切腹、主家はちりぢりバラバラになり、自分たちは失業するんじゃあるまいか――なんかと、このごろの人間じゃないから、すぐそんなけちなことは考えない。金のできない場合には、一藩ことごとく全国へ散って切り取り強盗でもしようか――まさかそんなこともできないが、と一同黒い無言。

出るのは溜息だけで、やがて対馬守を先頭に登ってきたのは、帝釈山の頂近く、天を摩す老杉の下に世捨て人の住まいとも見える風流な茶室です。

このごろの茶室は、ブルジョア趣味の贅沢なものになっているが、当時はほんとの侘びの境地で、草葺きの軒は傾き、文字どおりの竹の柱が、黒く煤けている。

「どうじゃ、爺。