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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
「そうじゃ一里はたんまりある」
「それに険しい山路じゃ」
「それに恐ろしいこの吹き降り……」丑松はギョロギョロ四辺を見ながら、
「俺は歩くことがから下手じゃ」
「妾は体が顫えて来た。口が引き釣って声が出ない」
「俺一人で走っても硫黄ヶ滝までは二時間はかかる」
「二時間のことはさておいて半刻遅れても間に合わぬ!」島君はべたべたと坐ってしまった。
と、丑松は空を仰ぎにわかに耳を引き立てた。
「島君!」と不思議な威厳のある声で、「聞くがいい。あの音を。……聞こえるかな? あの音が?」
云われて島君は顔を上げた。そうしてじっと耳を澄ました。空の嵐と雨の音とを一筋はっきりと貫いて、グングングングングングングングンという底力のある太い音が、遥か遠くからこちらを目掛けて次第次第に近寄って来る。
「ええ聞こえます聞こえます」と、うわ言のように彼女は云った。「何んの音でござんしょう!」
「俺達を助ける神様の声じゃ。さああの声に乗るがよい」
こう云う丑松の声の中には変な威力がこもっていた。
「あれはな」と丑松は云いつづけた。「尊い尊いオースチン様が、お国西班牙の魔法の術で、空に懸け渡した鉄の縄じゃ。