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つたかずらきそのかけはし

蔦葛木曽棧

国枝 史郎

「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页

青空文庫

「市之丞様!」

とその声を聴くや、老師に負われていた芳江姫は歓喜の声を筒抜かせた。

「おおそれでは市之丞様は活きておいででございましたか、お願いでござります老師様、背から下ろして下さりませ。市之丞様が土牢の中から妾を呼んでおりまする」

「狐狸の沙汰じゃ! 悪霊の惑わしじゃ! 一旦殺された市之丞殿が蘇生えって来る訳はない! ああこんな機時幻灯機械があったら、土牢の内を照らして見るものを!」

「そのお疑いはごもっともながら決して我々は狐狸ではござらぬ。妖怪変化でもござりませぬ」

こう云ったのは威あって涼しい、一番最初の声であった。

「やあ者ども松火を点けよ!」――涼しいその声はこう叫んだ。

声の終らぬその中に土牢の内も地下道も真昼のように明るくなり、格子を払った土牢の中に一団の武士整斉と並び此方を見ているのが三人に見えた。

毛皮を打ち掛けた牀几の上へ悠然と腰掛けた一人の武士、これぞ一団の大将と見え、身には直垂を付け鎧を着流しまだ角髪の艶々しきに故意と冑を従者に持たせ烏帽子を額深く冠っている。

これこそ他ならぬ御嶽冠者。すなわちこの物語の主人公であった。

冠者の左側に坐っているのは数馬にとっては一面識ある冠者の義弟石川五右衛門で、黒糸縅の大鎧、総髪の上に鉢巻をし、陣刀を握って杖突いている。