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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
音もなくスーと雨戸が開いた。厳重にした足拵え、甲斐甲斐しい旅装束、二日分の糧食を持ち、ポンと庭へ飛び下りた。
いつもは厳しい夜間警護もこの荒模様に気を許したものか、夜番一人見廻わってもいない。
「しめたぞしめたぞ、態あ見やがれ、地丸だなどと威張ったところで、この油断は何事だ。この塩梅なら奥へ忍びあいつの寝首を掻くことさえ出来る。が俺達は先を急ぐ、だから首だけは預けて置く。命冥加と思うがいい」
人丸左陣は痛快そうにこう小声で罵りながら先へ立って走り出した。間もなく最初の陣屋まで来たが番兵どもの影さえ見えぬ。
「これでは少しばかり飽気ないな。せめて二、三人は叩っ斬りたいものだ」
ここでも悪態を吐きながら二人はドンドン走って行く。第二、第三、第四の陣屋をも、二人は無事に駈け抜けた。ここから先には陣屋はない。さすがに二人はほっとして、雪明りで顔を見合わせたが、
「おいお銀、もう大丈夫」
「有難いことさ、さあ行こう」
で、二人は助け合いながら、深い谷を下へ下った。谷を越すと山である。山の頂きまで辿りついた時、ボーッと吹き鳴らす貝の音が雪を冠った山々に響き夜気を貫いて聞こえて来た。