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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

藩の次男か三男か、それも風儀のよくないらしい、冷飯食いの若侍が、時々出たりはいったりしたが、二人を見ると囁き合い、そのくせ挨拶などしようともせず、不作法を尽くして帰って行った。

道場らしいものはあった。

十三間に十間の、板の間の部屋が出来ていて、板壁には竹刀だの木刀だの、稽古槍だの、鎖鎌だの、面、籠手、胴だの脛当だのが、ひととおり揃えて掛けてあり、一段高く師範の坐る席が、つくり設けてありもしたが、部屋の隅には蜘蛛の巣が張り、床にはほこりが溜っていた。

それでも婆やが行燈をつけて行った。

その燈の前に坐りながら、兄妹はだんだん不安になる心を、言葉に出してポツポツ話した。

「妾にはどうにも司馬というお方が、不安に思われてなりませぬ」

織江はこういうと兄の顔を、うかがうように正視した。

「うむ」と範之丞は頷いた。「わしにも不安には思われるが……しかし田舎にはああいう人物で、案外親切なのがいるものでな。……疑がうのは少し早かろうよ」

範之丞は神経質で取り越し苦労をし、またすぐにカッと怒りもしたが、しかし物事を善い方へと、考えて行く善良なところがあった。そこで今もそういったのであった「疑がうのは少し早かろうよ」