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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
そこで二人は知り合ったのである。
勤王の先駆者、一世の奇人、熱血そのもののような高山彦九郎、この人物の友人であり、同志であり、むしろ先輩であるのが、この高阪郡兵衛であり、そうして高山彦九郎をして、その東北の大饑饉の様を、実地に見聞させるべく、慫慂し実行させたのも、この高阪郡兵衛なのであった。
「殿」
と郡兵衛はいいつづけた。
先刻からいいつづけているのであった。
牧野遠江守の藩士により、一揆の煽動者指揮者として、狙われている彼だったので、その眼を眩ましてここへ来ること、容易の業ではなかったのに、そこをどうして潜りぬけたものか、白昼くぐりぬけてやって来たのが、二刻ほどの前であり、爾来説きつづけているのであったが、どうしたものか冬次郎はそれを諾おうとはしないのであった。
「殿」
と郡兵衛はいいつづけた。
「ともかくも現場へお越しくだされ、百姓どもの憐れの様子、一揆嗷訴をいたさいでは、とうていいられぬ窮境を、実地にご覧くださりませ、郡兵衛お願いいたしまする」
「…………」
冬次郎は黙っていた。
側に引き添い端座している、戸ヶ崎熊太郎も当惑したように、これも黙って俯向いていた。