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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
「しばらくの間のよき隠れ家、雨露をしのがせてくれたところ、名残りおしく思われまする」
この屋内も幽暗としていて、そこにいる二人の人間が、この世ならぬ他界の幽霊かのように見えた。が、雨戸の間から見える、枯れ草の丈なす戸外の庭は、陽に照り栄えて明るかった。
三軒の廃屋の右の外れの、その一軒の奥の部屋で、三味線を膝の上へのせながら、お吉のことを思い出している、そういう九十郎を背後より、討とうとして織江が忍び寄ってる。――とも知らずに範之丞とお吉とが、ふたたび帰らない江戸への旅へ、盆地の草を分けながら、丘の方へ並んで歩いて行く姿が、点景かのように見えたのは、それから間もなく後のことであった。
十八
刀ふりかざし忍び寄った織江、
(討てる!)
と感じ、感じた刹那、
「父兄の敵イーッ」
と斬り込んだ。
が、何んの九十郎隙があろうか、剣鬼であった。
「女郎!」
飛び起き、三味線で払い、つづいて投げ付けたじろぐ相手の、隙に引き抜いた刀を中段、――中段につけて追い立てた。
「縄解いたな、おおそうか! ……斬り込んで来たな、いい覚悟! ……どうせ汝は殺す奴! ……かかれ、来い、来られめえがなアー」