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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

ご熟慮なさりませ!」

いい捨て飛び道具に囲繞されたまま、表門の方へ歩いたが、(冬次郎様一党を、こんな具合に飛び道具で威嚇し、車塚の郷から他領へ送り、一種の痛快味を覚えたが、運命自分に巡り来て、今夜は自分がこんな塩梅に、田沼様にあつかわれて追い立てられる。アッハハハ変なものじゃ)と、心の隅でふと思った。

この夜もやがて更けまさった。

織江は一人阿蘭陀部屋にいた。

監禁されているのであった。

親の敵は首尾よく討った。それだのに討った直後において、自分の貞操を奪おうとする、田沼意次にとらえられ、このような一室に監禁され、今夜のうちに狂女お浦が、その田沼の手に返らぬものなら、事実自分は田沼によって……

とこう思うと織江はたまらなかった。(いつまで不幸は続くのだろう?)

とはいえ彼女は今夜のうちに、狂女お浦が冬次郎様の手から、田沼のもとへ返されて、代わりに自分は許されるものと、そんなように思われてならなかった。

(早くお浦様が返されるように、それまでは夜が明けぬように)

彼女は熱心にそう願った。

毛皮のかかっている長椅子の上へ、彼女は体を横たえて、シャンデリアの燈を眺めながら、クタクタに疲労れ極まっている体を、長く延ばして休ませた。