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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

が、今は一切安全。……ご存知の白須氏、桐島氏差し添え、これより直ちに駕籠をもって、冬次郎様お屋敷まで差し立てまする……つきましてはこれなる小箱一個、私より冬次郎様へのご進物、そなたの手よりお渡しくだされ、このようにご伝達くださりませ。『貝十郎代わって小町となり、草紙洗いましてござります』と。……それに致しましても思えば奇縁、そなたを乗せました女乗り物を、去年の十一月隅田堤において、冬次郎様奪われたを発端に、今日までおよそ一年、冬次郎様と競ぎ合い、幾変転幾安危、その間死者あり生者あり、失脚せし人、乗り出す人あり、浮世の性をきわめましたが、ふたたびそなたを駕籠にのせ、冬次郎様お屋敷へ差し立てまして、一切のもつれことごとく解き消え、事件治まる次第となりました。……まこと奇縁にござりますのう」

織江は俯向き黙然としていた。

彼女には十二神貝十郎という、この人物が大きい暖かい、そして非常に手頼りになる、力強い手の持ち主と、そんなように思われてならなかった。

(恐いことなど一度もなかった)

彼女は心からそう思った。

明朗秋の昼

一

同年九月七日の夜、将軍家治薨去した。