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くいどうらく
食道楽
村井 弦斎
冬の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 170,664 字 · 341 页
主人公が開会の辞終りて会衆は各々設けの席に着きぬ。中に最も悦び顔なるは先に中川と争いし近視眼の若紳士なり。右の隣席に当家の姫君玉江嬢あり、今日こそ西洋の交際法に傚いて婦人のために食事の世話をなし、運好くば姫君の選びに預からんと窃に機会を待っている。第一に出で来れるは皿に盛りたるマルボントース、若紳士はここなりと頼まれもせぬに塩壺を取り「サア玉江さん、塩は如何です、薬味も取って差上げましょうか。オヤ薬味壺が出ていない。オイ中川君中川君、見渡す処この卓上に薬味壺が出ていない。ウシターソースは何処にある、もしや御失念になったのではあるまいか」と頻にキョロキョロ見廻している。中川打笑い「イヤ、こういう御馳走に薬味壺は出さんよ。ウシターソースをかけなければ食べられんようなお料理はないから安心し給え」と説明されて若紳士大に手持無沙汰なり。玉江嬢も余計なお世話と言わぬばかり「塩味もちょうど好くなっております」と窃に隣人の軽挙を笑う。彼方の席には小山の妻君がお登和嬢と並びし事とて一々料理の説明を聞き「お登和さん、このマルボントースは柔で結構ですがどうして拵えます」