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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

二

……」

熊太郎は二人へ声をかけた。

「へい、何んでございますか」先棒を担いでいた外伝がいい、「先生切り合いがはじまるんですかい」

と、後棒をかついでいた新助が、むしろ愉快そうに声をはずませていった。

「血煙り一番揚がるかもしれぬぞ」

「それじゃアそろそろ用意しやしょう。……おい外伝、剽軽者を出そうぜ」

「よかろう」というと外伝は、駕籠の戸を開けてのぞき込み、

「お嬢様、ちょっとお出しなすって」

「はい」というと用意して置いた脇差しを二本差し出した。

「それよ新助」

「おっとよし来た」

「久しく血を吸わねえこいつらだ、今夜こそ思うさま吸わせてやるぞ」

「女の肌のようにネットリとした刀身だ。男の肌へ食い込ませてやろうぜ」

「やろうぜ、ホイ」

「ホイ、あがりまアす」

駕籠が宙へゆらゆらと上がった。

二

神道徳次郎を頭とし、修験者崩れの火柱夜叉丸、浪人で悪の紫紐丹左衛門、女勘助に鼠小僧外伝、そこへ因幡小僧新助を加えて、天明の六人白浪といい、後世にまでも謳われた盗賊、その中の外伝と新助とが、切り合いよかろう腕が鳴らアと、勇み立っているのであった。

これらを率いた戸ヶ崎熊太郎、これは当代無双の剣豪、で、この一団に向かうもの、まずもって勝ち目はないものと、観念しなければならないだろう。