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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

五

「かかる時の用にもと、当家御初代さまの隠しおきたる金子、幾百万両とも知れず。埋めある場処は――」

眼をきらめかせた対馬守、じっと宗匠の筆のさきを見つめていると、

「――こけ猿の壺にきけ」

と一風の筆が書きました。

五

こけ猿の茶壺にきけ――対馬守が、口のなかでつぶやいて、小首を傾けるのを、じっと見つめていた一風宗匠は、やがて筆をとって懐紙に、左の意味のことをサラサラと書き流したのです。

それによると……。

剣道によって家をなした柳生家第一代の先祖が、死の近いことを知ると同時に、戦国の余燼いまだ納まらない当時のこととて、不時の軍用金にもと貯えておいた黄金をはじめ、たびたびの拝領物、めぼしい家財道具などをすべて金に換えて、それをそっくり山間の某地に埋めたというのである。

「山間の某地にナ」

と対馬守は、眼をきらめかして、

「夢のごとき昔語りじゃ」

と、きっと部屋の一隅をにらんだ。

すると、殿の半信半疑の顔を見た一風宗匠は、また筆をうごかして、

「在りと観ずれば在り。無しと信ずれば無し。疑うはすなわち失うことなり」

「ふうむ……」

腕こまぬいた対馬守のようすに、家来たちも、もうふざけるものはない。