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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

七

思わず怒声をつのらせた対馬守、

「ナニ? 源三郎は、まだ品川にうろうろいたしておると? しからば、こけ猿の茶壺は、いまだ本郷の手へは渡っておらぬのだな?」

「それがソノ」

と主水正自分の落ち度のように平伏して、

「同じく玄心斎の報告では、こけ猿のお壺は、つづみの与吉とやら申す者のために持ち出されて、連日連夜捜索中なれど、今もって行方知れずと……」

「何イ? 壺を、ぬ、盗まれたっ――!」

七

そのこけ猿の茶壺を、つづみの与吉の手から引っさらったのが、あの得体の知れないところてん売りの小僧、名も親もはっきりしないチョビ安で――

そのまたチョビ安が与の公に追いつめられて、苦しまぎれに飛びこんだ橋下の掘立て小屋が、偶然にも、かの隻眼隻腕の剣鬼、丹下左膳の世をしのぶ住まい。

何ごとかこの壺に、曰くありと見た刃怪左膳、チョビ安の身柄といっしょに今、こけ猿の茶壺を手もとに預かっているので。

人もあろうに、左膳の手に壺が落ちようとは……。

これは、だれにとっても、まことに相手が悪い。

だが。

そんなことは知らない柳生の藩中、対馬守をはじめ、家臣一同、こけ猿が行方不明だと聞いて、サッと顔いろを変えた。