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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

三

すると、ふしぎなことが起こったのです。

左膳が、スーッと刀をおろしながら、その相手から二、三歩遠ざかった。

それでも、その男は、刀を鍔ぜり合いの形に構えたまま、斬っ尖に天をさして、凝然と立っている。

柱によりかかっていた人が、フワリとその柱をはなれる時のように、左膳は日常茶飯事の動作で、一間ほどその男から遠のいたのですが、黒い影は、まだガッキと腕に力をこめて、大地に根が生えたよう……。

離れた左膳は、不意に、大切なこけ猿を相手の足もとへ置いてきたのに気がついた、またブラリと引き返して、刀を口にくわえ、それを左手に抱きあげてもとのところへ帰って……相手は作り物のように、まだ鍔競り合いの恰好のまま動かないんです。周囲の伊賀の連中は、このありさまに何事が起こったのかと、あっけにとられて眺めているばかり――。

だが、さすが名剣手の高大之進だけは、心中に舌をまきました。

その、刀をくわえて、ボンヤリ壺を取りにひっかえしている左膳のどこにも、一点のすきもないんです。ピンの先で突いたほども、気の破れというものがない。

すると、ここにふたたびふしぎなことが起こったので。