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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
02 こけ猿の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页
八代様のことを、吉さん吉さんという。
相手が相手ですから、愚楽はだまって、ニコニコ笑っていますが、ほかでこんなことを言って、もしお役人衆の耳にでもはいろうものなら、首がいくつあったって足りません。
ケロリとして、泰軒はつづける。
「ま、よく心を洗うように、泰軒がよろしくと言うておったと、吉さんにつたえてくれい」
「は」
と愚楽老人は、くすぐったそうな笑顔。
「承知いたしました。おつたえいたしますが。泰軒大人、いくら心を洗うても、何か気になることがあっては、そのこころの洗濯が洗濯になりますまい。このごろ上様におかせられては、あの柳生の壺騒ぎを、ひどくお気にかけておらるるでのう」
それを聞きながして、泰軒は大岡さまへ、
「使いに来たのは、大作か」
「うむ。伊吹をやった。例によって、文を投げこんでこいと言うてな」
伊吹大作……この人は、越前守手付きの用人中、一ばん信任のあつかった人だ。あの天一坊事件や、雲霧仁左衛門事件で大活躍をした方で、まア、腕っこきの警部さんといったところ。
「投げこむが早いか、ドンドンと戸をたたいて、トットと逃げよった。出てみたら、もう影も形も見えん。