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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

三

「丹下左膳? 何やつか、その者は。どこにおる」

「ヘエ、吾妻橋の下に――」

「何を吐かす? 壺の儀は、いずれ詮議いたす。それより、貴様は、余が源三郎であることを観破したうえは、一刻も早く道場の者に知らせたくて、うずうずしておるであろうな」

源三郎は、ほほえんで、

「行け! 行って、峰丹波に告げてまいれ。余はここで待っておる。逃げも隠れもせんぞ」

ものすごい微笑だ。与吉は、いい気なもので、このときすきを発見した気になった。サッと源三郎の横をすっ飛んで、勝手口へ駈けあがった与吉……。

そこにいた婢がおどろいて、

「あれま! この人は草履のまんま――」

言われて、台所の板の間に麻裏を脱ぎ棄てた与吉は、どんどん奥へ走りこんで、かって知った峰丹波の部屋をあけるなり、

「ア、おどろいた! います! この家にいるんです! なんて胆ッ玉のふとい……」

さけびながら与吉、べたべたと敷居にすわった。

三

この剣術大名の家老にも等しい峰丹波である。奥ざしきの一つを与えられて、道場に起居しているのだ。

机にむかって、何か書見をしていた丹波は、あわただしい与吉の出現に、ゆっくり振りかえった。