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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

十七

「貝十郎オーッ」

と意次は、刀へ手をかけ吼えるように叫んだ。

「お浦はどうした※(感嘆符疑問符、1-8-78) いかがいたした※(感嘆符疑問符、1-8-78)」

「や、殿!」

と思わずいい、貝十郎は足を停め、連れている織江を背後にかばい、当惑したような様子を見せた。

「冬次郎の配下に奪われたと、たった今しがた注進があった。事実お浦奪われたか※(感嘆符疑問符、1-8-78)」

「門外において奪われました」

貝十郎は率直にいったが、その声には恐怖も狼狽もなく、何らかを信じているような、泰然としたところさえあった。

が、意次にはそれがかえって、図々しく太々しく思われた。

「汝が汝が貝十郎! お浦がいかに大切かを、知悉しいながら奪われて……しかも敵手の冬次郎の手に、この門前において奪われて、恥じ入らぬばかりか横柄の態度! ……さては汝この意次の失脚失意の境遇を見て、心変りしたな不忠の姦物!」

刀に反を烈しくうたせ、足先で地を噛みジリジリと進んだ。

「お浦こそ冬次郎様に奪われましたが、その代わりといたしまして、これなる婦人を手に入れましたれば、勝負は五分五分にござります」